僕の父親は高校の教師だった。
母は、戦前の尋常小学校の校長の娘として生まれた。
親せきには教師がゴロゴロいる、教師の家庭に生まれ育った。
だから僕は、ビジネスというものを知らずに育った。
ビジネスの本質がわからなかったのだ。
そんな状態で独立開業をしたのだから、初めは戸惑うことばかりだった。
もっとも戸惑ったのは、お金の使い方だった。
お金を使う順番が違う
サラリーマン時代だったら、まずはじめにお給料としてお金が懐に入ってきて、その入ってきた範囲内でお金のやりくりをするのが当たり前だった。
すなわち、収入が始めにあって、支出があとからくる、という順番だった。
この順番が当たり前だと持っていた。
なぜなら、父親は都立高校の教師で公務員だったし、自分はサラリーマンだったからだ。
ところが、独立開業をしてみて強く感じたのは、最初に支出があって、あとから売り上げとしてお金が入ってくるという順番だということだ。
お金が出ていくほうが先で、入ってくるのが後という、今までと全く逆の順番だってことだ。
特に困ったのは、広告費だ。
どこに、いくらで広告を出せば、どれくらいの反応があって回収できるのか。
もしそれがわかっているのであれば安心してお金を出せるのであるが、それはやってみなければわからない。
もしかしたら、まったくの空振りに終わるかもしれないのだ。
それまで、株や投信などリスクのある金融商品さえ買ったことがなかった自分にとって、リスクを負うということがものすごくプレッシャーだった。
そんな自分がビジネスをやるというのは、本当に戸惑うことが多かったのだ。
経済活動の本質はリスクを冒すこと
ドラッカーは、その著書中でこんなことを書いている。
経済活動とは、現在の資源を未来に、すなわち不確実な期待に賭けることである。経済活動の本質とは、リスクを冒すことである。〈中略〉リスクを皆無にすることは不毛である。最小にすることも疑問である。得るべき成果と比較して冒すべきリスクというものが必ずある。戦略計画に成功するということは、より大きなリスクを負担できるようにすることである。より大きなリスクを負担できるようにすることこそ、起業家としての成果を向上させる唯一の方法だからである。
そうなのだ、経済活動の本質はリスクをとることなんだ。
リスクがない、などということはあり得ないのだ。
月給が決まっているサラリーマンにしても、そのリスクは会社が負っているだけであって、会社の一員である自分にも間接的にリスクはあるはずなのだけれど、それを意識できていないだけだったのだ。
そして、リスクは得られる成果と比較してどこまで冒すかが決まるのだ。
成果以上のリスクを冒してしまっては、経済活動が続けられなくなる可能性があるし、大きな成果を収めようと思ったら、それなりのリスクを冒す必要があるのだ。
戦略計画とは何か
また、ドラッカーは戦略計画について、以下のように述べている。
戦略計画とは何か。それは①リスクを伴う起業家的な意思決定を行い②その実行に必要な活動を体系的に組織し③それらの活動の成果を期待したものと比較測定するという連続したプロセスである。
リスクをとる意思決定を行い、実行に移し、成果を測定する。
当然、その結果を受けて、次の戦略計画に反映させていく。
その繰り返しであると。
これは、試行錯誤を行うということだし、良くいわれている「PDCAをまわす」ということに他ならない。
これこそがビジネスの本質、ということになるのだろう。
失敗を恐れずリスクをとる
リスクを冒す、ということは当然のことながら失敗する可能性があるということ。
失敗を恐れていたのでは、リスクを冒すことはできない。
ただ、どの程度の失敗が許されるのか、どの程度のリスクを冒すか、ということは考えておかなければならない。
ある意味、失敗することは織り込み済み、想定の範囲内ということになる。
以前、ホリエモン氏がニッポン放送を買収しようとして話題になった時に「想定内」という言葉をよく使っていた。
リスクを負う、ということはそういうことだと思う。
これに対して、福島第一原子力発電所の事故の時には「想定外」と言いう言葉が使われた。
起こりうるリスクを想定できていなかったということは、戦略計画としてはずさんだったと言えるかもしれない。
想定内のリスクであれば失敗とは言わないのかもしれない
リスクが想定内の範囲であれば、成功とは言えなくても失敗とは言わないのかもしれない。
想定内で収まったのであれば、何らかの収穫はあったはずだ。
それは経験だったかもしれないし、人脈をつくれたのかもしれない。
少なくとも、結果測定し、分析し、次につなげる何かを得た可能性はある。
にもかかわらず、多くの人はリスクをとることを恐れる。
損失を恐れる。
損失を恐れるがあまり、リスクをとることができず、大きな利益を得ることもできないということになる。
まとめ
ビジネスの本質はリスクを冒すことである。
リスクを冒すことが悪いことであると思っている人には、経済活動はできない。
所詮、この世には、様々なリスクが存在する。
そのリスクをゼロにして生きていく事はできない。
リスクを冒して利益を得るのが経済活動の本質であるなら、それが人生の本質だと言ってもいいのかもしれない。
リスクを冒すことは悪いことではない。
どの程度のリスクなら冒すことができるのか。
きちんと想定して、その範囲内でリスクを冒すことが大切なのだ。
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